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東京支部最後の夜

 矢嶋さんから師範代と支部長返上の申し出を受けて、支部稽古の最後の日、私も遅れて会場へ行きました。

 常連会員さんの御家族が先日、亡くなられていたので、遅ればせながら御自宅へお参りにうかがって、それから駆けつけたものですから、私の着慣れぬ礼服に黒ネクタイ姿を見て、矢嶋さんも稽古会の皆さんも、ちょっとビックリした顔をしていました。

 実はこの礼服もネクタイも親父の形見を貰ってきたもので、中年過ぎてから体型がほぼ同じくらいになっていたんで、私が貰ったんですね。今度は七回忌の法要に実家に帰る時にも着る予定ですけど、やっぱり礼服はお目出度い時に着たいですよね?

 奇しくも、東京支部の最後を看取るみたいでもありましたが、大阪に行っていた筈の会員さんも参加されていて、ちょっと驚きました。

 聞けば、荷物がこちらに残っていて完全移転とまではいっていないそうです。

「私が引っ越すから支部が無くなるのでは・・・」と、責任を感じられていたみたいなんですが、矢嶋さんは「あくまでも自分の実力が足りないからです」と話していて、潔いな~と思いました。

 でもね~。正直言うと、他の常連会員の皆も、「なんで相談してくれないんだよ~。矢嶋さんは水臭いよっ」と、ちょこっと怒ってましたよ。

 彼は責任感が強すぎて、自分だけで抱え込むようなところがあるから、そこはもうちょっと心をオープンにして周囲に相談するとかすればいいのにな~?・・・とは思いました。

 でもまあ、二年近く、よくぞ頑張って続けてくれましたよ。

「公務員だからバイトはできません」と言って、会費も全額、私に渡していたんですよ。

 そういう律義な人間なんですよ。矢嶋さんは・・・。

 本当にうちの会で長く続いている人は、邪念が無いです。邪念があると、ちょっと上達したら自信満々になって自惚れてしまう・・・。

 で、「君は破門です!」って言うしかなくなったりする。

 いやもう・・・本当に、要らんことやるヒマあるなら練習しなさいよ!って言いたくなりますよ。

 武術は中途半端にやるのが一番、危険! やるなら、人並み以上のレベルになるまで集中してやらないと邪念に捕らわれて道を踏み外してしまいます。

 そうなってしまった人を随分と見てきましたし、私が教えた者の中にも数人はいましたよ。

 武術修行は、人間の限界を見つめて突破する方法を追究することですが、それはつまり限界と常に対面し続けているってことです。

 いくら実力がついても不死身になれる訳じゃなし、人間の強さは、弱さと表裏一体なんだと気づいてこそ、一線を超えた境地に到る・・・。

 弱さを知ることが強さに繋がるんですね。

 私は二十歳前後の頃に初めてパニック障害の発作を起こして、それから頻繁に発作が起きるようになってしまったんですが、当時は何の病気か全然わからなくて、「俺はもう30過ぎまでは生きていられないんじゃないか?」と恐ろしかったですね~。

 でも、「どうせ、いつ死ぬか判らない」と思う中で一種の開き直りの境地になって、だからこそ自分の好きな道を選べたという面もあるかもしれません。

 去年の東日本大震災を体験した多くの日本人が、あの時の私と同じことを思ったんじゃないでしょうか?

 生きてることは死ぬことが前提なんだ・・・という、普段、意識しない現実。

 実際、人間が死ぬのは実に簡単です。数分、水に沈めていれば死ぬし、脳天から二階からアスファルトの上に落下したら死ぬでしょう・・・。

 私は武術の研究しているから、人間をどうやったら簡単に一瞬で殺せるか?ということは物凄~く研究しています。

“人を殺せる力”を特別なものだと考える人もいるでしょうが、別に難しくはありませんよ。

 例えば、酔っ払って喧嘩していたら相手が逃げ、追いかけて別人にからみ、ネクタイを掴んで思い切り引っ張ったら窒息死してしまった・・・なんて事件もありました。

 殺された人もえらい災難ですが、殺した方も、まさか、そんなに簡単に人が死ぬとは思っていなかったでしょうね。

 生き死には人知の及ばない運命的なものも確実にあります!

 だから、生きている者は、ちゃんと生きて、いつ訪れるか判らない死を有り難く迎えられるようにすべきだと思います。

 私が武術を護身術と認識しているのも、誰もがちゃんと生きられるための術であるべきだと考えているからです。

 死ぬ時に、「あ~、こんな人生の終わり方は嫌だ」という気持ちにならないように生きるには、自分の希望を外部から抑圧されても跳ね返せる力が必要でしょう。

 そういう“精神の強さ”を獲得するために武術が役立つものであって欲しい。

 それは、死んでしまった人の思いを生きている者が引き継いで次代に繋いでいく作業にも結び付いていく“伝統”というものの価値にも通じると思いますね。

 私も50に近づいて、後、何年、生きていられるかな~?と、最近はよく思ったりします。もう、無駄なことや回り道をしている余裕は無くなったと思っています。

 日本刀で言えば、下地研ぎが終わって、仕上げ研ぎの段階に入ったように思います。

 これから入念に磨き上げて、地鉄の鉄肌を浮き上がらせ、刃文を白くする職人芸的な段階になったと思います。

 私が日本刀に惹かれるのは、人間は高々、80~90歳くらいしか生きられませんが、名刀は数百年、千年も時代を超えて残ります。

 人間も、死んだ後も名前と業績が世紀を超えて残っていくような生き方をすべきだと思うのです。

 それはつまり、私の場合は、優れた人材の素質と才能を引き出して次代を担う“超達人”を育てあげるということが一つ。

 もう一つは、武術文化が世の中に役立つような形にして提供すること。

 単なるスポーツや趣味の枠組みに矮小化することのないように、心身機能開発システムとしての武術の可能性も引き出していかなくてはいけないな~と思っています。

 また、武術の世界だけで知られていた達人の名前と実績を伝えていくのも私の使命でしょうね。それは教えを受けた諸先生方への最大の恩返しになると思っています。

 今回、東京支部は閉会しましたが、人間は育っています。本部と別に、橋本と横浜の同好会は続いています。東京も近いうちに新たな器で再出発したいと思っておりますので、その時は宜しくお願いします!

 最後に、矢嶋さん! 二年間、私の代わりに指導をしてくれて、本当に有り難う!

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著者プロフィール

yusinryu

Author:yusinryu
長野峻也(ながのしゅんや)。武術研究家。游心流武術健身法主宰。
武術指導、アクション殺陣指導致します。映画等のコラムも書きます。
関係者の方、ご連絡をお待ちしております。
yusin_mail_from2006
@yahoo.co.jp

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