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八卦掌の威力

 付き合いのある仕事先の方から「今度、ある八卦掌の先生の稽古会を見学に行くことになったんですが、中国武術はよく判らないので、長野さんも一緒に行って感想を聞かせてくれませんか?」とお誘いを受け、どうも、前々から噂に聞いていた先生なのではないか?と直感し、お引き受けしました。

 もう、いつも書いていることですが、私は自分から進んで武術の先生とお会いしようという気持ちは無くなってまして、その理由は一つには、私が業界で甚だイメージが悪くて悪名が轟いているので、挑戦しに来たと勘違いされて警戒されたりする可能性もある・・・ということがあります。

 また、最初は謙虚にしていても、付き合いが深まると傲岸不遜になる人も多いので、もう嫌気がさしていまして、座右の銘は「君子の交わりは水のごとし」とし、薄い付き合いを保つように注意しています。

 なので、武術武道関係で私がある程度深くお付き合いさせてもらっている先生と言ったら、青木宏之先生と、あとは数える程しかいらっしゃいません。

 例えば、長年、お世話になっていた先生とも、つい先日、お別れする決心をしまして、その旨のお手紙を出しましたが、年賀状でお返事らしきことを書かれていらしたんですが、何を意図されているのか不明なので、私は返書は出しませんでした。やはり、お別れするのが正解だったな・・・と、期待はしていませんでしたが、多少残念に思いましたね。

 余談ですが、武道武術の先生は、本音をさらすことを嫌う方が多いですね? しかし、本音をさらさないとまっとうな信頼関係は築けないと思いますよ。相手が真剣に肚を割っているのに自分は当たり障りの無いような対応しかしないのでは、信義のある交わりはできません。

 下手な小細工で間接的に伝えようとしても、事態は改善しないばかりか不信感を与えるだけです。

 本音でぶつかれば傷つくこともあるでしょうが、傷ついても構わないという強い意志でこそ、相手の魂に響くんじゃないでしょうか? トラブルを避けるだけが武術なのだと勘違いしている人が多過ぎるような気がしますね・・・。

 だから、今の時代に武術人がただの変わり者扱いされてしまうんじゃないでしょうか?

 日本で最も評価されている武術人が甲野善紀さんというのは、何とも情けない状況だと私は思いますけど、現実に社会一般に影響力を示した点では否定できませんからね。

 もっとも、一般的に知られていないだけで世の中に大きな影響を与えている先生は、松田隆智先生や青木宏之先生がいらっしゃいます。私は研究家としてその溝を埋めていかなくちゃいけません・・・。


 さてさて、そんな次第で私は、自分から会ってみたいと思える方は、もう、ほとんどいなかったんですが・・・、今回は多少、期待していた面もあったのです。

 で、約束した日に都内某所の体育館に行きまして、会場で練習されている方に御挨拶したら、ちょっと早くて先生も来られていなかったんで、一階のロビーで缶コーヒー飲みながら待っていると、依頼主一行と、その八卦掌の先生が来られました。

 あれっ、やっぱり見覚えがあるな~?と思って、「もしかして、以前、学研のムック本に出られてないですか?」とお尋ねしますと、やっぱり、そうでした。

 つまり、私が(ひょっとして・・・)と思っていた先生その人だったのです。

 いや~、噂はいろいろ聞いていたんです。“八卦掌で凄い強い先生だ”という噂。

 しかし、直にお会いすると、非常に優しく邪気の無い明るい先生で、そうですね~? 私の知ってるタイプとしては高小飛先生を思い出しましたね。

 けれども、中国の先生は、顔は優しくても技を繰り出す時は凄く荒っぽくなる方が多いので、油断は禁物です。

 道場に入ると、稽古生の方が集まってきていましたが、予想していたよりずっと多くて、ざっと20人くらいいらっしゃいましたね。女性も数人居て、太極拳以外の中国武術でこの人数は多いと言ってよいでしょう。

 何しろ、あまり表だって生徒募集されていないのでしょうから、口コミだけで集まったと考えるしかありません。

 練習を見学していて思ったのは、先生が理論的に技の原理や用法の仕組みについて説明され、そればかりか逆に質問して生徒に考えを深めさせていた点で、単なる身体操作でもなく観念的にもならず、非常に実践的でありつつ哲学的な学びの空間として設定されているな~・・・ということ。

 ムック本の表現では“ガマガエルみたいで泥臭くてカッコ悪いんだけど、強い”というものでしたが、私の目には先生の動きは非常に機能美の極致に思えて、八卦掌特有の流れが止まらない円転の動きに、うねりと捩りの掌法が組合わさり、穿掌はドリルのようで挑掌は薙刀で斬り上げるよう、撞掌はコンクリート塀を打ち砕くがごとき烈しさ・・・。

 歩法は軽やかで身法は同側順体(世間的にナンバという言葉で間違って広まっているもの)、掌法は重剛・・・これは噂に違わぬ超絶なる威力だな~と思いました。

 技の用法の受けを取っているのが長身の外国人の方で、恐らく、普通の打撃格闘技の突き蹴りをガンガン受けても平気なんじゃなかろうか?と思うものの、斬馬刀で刈り倒されるように為す術なく引っ繰り返され、吹っ飛ばされる。

 その様子が、ただ単に八卦掌の動作を教科書的に使っているだけ。

「あんな軟弱な踊りみたいな動きでは武術として役立つ訳ない」と言われていた八卦掌の、かくも凄絶にして鋭くパワーに満ちた動きを見れば、多くの中国武術マニアは絶句するに違いありません。

 更に、八卦掌の養生効果が走圏にあると説く先生の内力に満ちた丹田の迫力。

 実際に武道の修練で壊れていた身体が自然に治癒されていった・・・と言う生徒の皆さんの声を聞けば、納得するしかない。

 中国武術の中で一つだけ選べと言われれば、私は迷わず八卦掌を選ぶ・・・というくらい好きで、台湾武壇に伝わったのと大連に伝承している宮宝田派二系統と、王培生派に伝わる程廷華・尹福・劉徳寛派は少し習ったんですが、今回は、根本的な八卦掌の原理について非常に有意義な時間を戴きました。

 ちなみに、この先生が教えられている派は八卦門中で最も実戦派で有名だった馬貴の系統。確かに発力(発勁)は腕は伸ばしたまま、運足と共に体の移動力を乗せて貫くように烈しく打ち出すので、貫通力と力積の大きさは見た目以上に巨大な筈で、おまけに運足は形意拳の寄せ足での震脚に似て、大槍で突き貫くような雄偉な様。

 一般に発勁の威力の強大な門派は一撃の破壊力を高めるのに震脚の踏み付けを利用しますが、これは瞬間に体が居着く欠陥も有します。

 だから連発できない波動砲みたいな方式。

 しかし、八卦掌の戦闘法は運足が止まらず動き続ける遊撃戦闘に特徴があり、一般の格闘技のような右構え・左構えの別も無く、回転・旋転・伸縮を目まぐるしく用いてサークリングの運足で斜めに躱しながら、交叉法で相手の中心軸をクサビで割り込むように斬り割って体勢を崩してしまいます。

 この戦闘法は内家拳の中でも最も新しく成立した門派だからこそ、実は他の内家拳を打ち破る戦術を蔵しています。

 その秘密が“歩”・・・つまり、走圏にあります。

 一般に武術は自分の制圧空間(制空圏)に敵の攻撃を入れないことを旨としますが、八卦掌は走圏の内部に敵を封じることで一方的に打ち倒す・・・つまり、制空圏に閉じ込めて倒すのが秘訣なのです。

 日本古武術風に言えば、“包容同化”ということです。

・・・というのは、私が八卦掌を研究してきて独自見解で到達した考えなのですが、この日はその考えが正解であったと再認識した次第でした。

 昨年、新陰流剣術・制剛流抜刀術の指導を受けた時以来の感動でした。


 先生の希望としては、これからもっと普及して広めていきたいと考えておられるそうで、その時は御迷惑でなければ、私も微力ながらお手伝いできればな~と思いました。

 それにしても、ムック本で紹介されていたことは随分、見当違いだったのでは?と思いました。

 下盤勢のやり方が全然、違う。ムック本で強調する程、腹圧を掛けることに意味があるのではなく、自然に下方に気を沈めるようにしているだけ。何か誤解されて広まっちゃったんじゃないかな~?

 中国武術の門派の中では、比較的新しく成立した八卦掌。何でも古ければいいと言うものじゃない。先進の武術を骨董品扱いする斯界の悪弊は取り除くべきですね。

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著者プロフィール

yusinryu

Author:yusinryu
長野峻也(ながのしゅんや)。武術研究家。游心流武術健身法主宰。
武術指導、アクション殺陣指導致します。映画等のコラムも書きます。
関係者の方、ご連絡をお待ちしております。
yusin_mail_from2006
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