コンテントヘッダー

震脚で脳震盪は起こらないか?

 陳氏太極拳の安田先生が『秘伝』の連載中で、「震脚で脳震盪が起こったりはしない」という旨のことを書かれていました。

 専門に学んだ方なので、「嘘が広まってもらっては困る!」というお気持ちで書かれたのだろうと推察します。

 ただ、きちんとした先生に学んでいる方だから言えることではないか?と思います。

 震脚と一口に言っても陳氏太極拳だけが行うものではなく、例えば、私は陳氏太極拳は学んだことがなく八極拳を少し練習しただけですが、以前、松田隆智先生からお聞きした話で、大学生に教えていた時に、震脚を打った学生が脳震盪を起こして倒れたことがあったという話でした。その方は知っている方だったので驚きました。

 で、私も研究段階で「下手に震脚をやると脳震盪を起こす危険性がある」という事実を体感したことが何度もあって、「これは姿勢とかやり方とか注意してやらないと危険だな?」と思うようになって注意を促すようにしている次第です。

 安田先生が主張されているように、「まともな先生にきちんと学んでいれば、震脚で脳震盪が起こるようなことはない」のだろうと思いますが、日本で中国武術を学んでいる圧倒的大多数の愛好家は、“まともな先生にきちんと学ぶ機会はほとんど望めない”という現実を視野に置かれていないと思うのですね。

 特に私のようにいろんな流儀を実践研究している者は、“下手な練習”を膨大に積み重ねていく中から真相に近づいていく手法をとっているので、当然のことながら、身体中、故障しまくっています。

 よく、「練習で身体を故障するようでは実戦の時に困る」という中国武術家の意見もありますが、実戦で無傷に済む道理が無く、実戦を想定した練習での傷は勲章みたいなものであって、安全安心なだけの練習を延々と続けていて、急に苛酷な実戦に対応できるものかどうか? 考えるまでもないでしょう。

 十数年前にある中国武術家にケンカを売られて買いましたが、まともにケンカの一つもやったことがない人なのがすぐに判りました。安全安心な練習の中で自分の腕前を勘違いしてしまったのでしょう。後日、その人が全日本チャンピオンだったことを知って二度ビックリしましたが・・・。

 最近は、まともなケンカの一つも経験無いような人達が武術家を名乗っている実例が多い様子ですが、「よく、名乗れるな~?」と他人事ながら心配になります。

 武術の世界は伝統的にヤクザ社会と極めて似ていますから、本当の実戦派武術家はヤクザや秘密結社と兼業だったりすることも、ちっとも珍しくありません。公表しないから知られていないだけの話です。

 ともあれ、そうしたことも含めての経験の中から、私は「こうやったらマズイ。こうやった方がいい」という方法論を常に改善進行中で提供していくようにしている次第です。

 だから、私は「自分のやっているやり方が正しい」という言い方はしません。

 正しいかどうかの判断基準は結果オーライであり、権威主義的な正解とは固定観念の枠から永遠に出られない代物でしかありません。

 私は自分の研究を既存の武術観や武術理論に対する脱構築だと認識しています。斯界で言われている正解をすべて疑って実験検証していく作業が必要だと思っています。

 その作業の中から、「真剣白刃取りは不可能。実際の無刀取りとは違う」とか、「日本刀を逆手持ちで斬ってもちゃんと斬れる」とか、「背負太刀の抜き納めは左肩越しでないとできないというのは嘘。練習すれば右肩越しでもできる」・・・といった斯界で常識とされていた事柄を検証してきました。

 どうしてか?というと、百の流派があれば百の正解を主張するものだからです。

 つまり、本当に正しいのがどの流派か? どの先生が正解を知っているのか?

 こうしたことは皆目わからない。正解に迫るには権威者の発言を疑って、自分で実験検証していくしかありません。

 仮に、真の正解を知っている先生がいたとして、それをそのまま弟子に伝えるかどうか? 私は大いに疑問です。

 武術家は聖人君子ではなく、「包み隠さず何でもお教えします」と言っている先生が、実際は嘘はっぴゃくで金儲けしか考えていなかったりするからです。

 特に日本も中国も伝統武術の世界は秘伝だらけで、金さえ払って熱心に練習していればすべて教えてもらえる・・・なんて甘い考えはまったく通用しません。

 構造的に嘘を教えて飼い慣らしておき、「これは!」と思える弟子一人だけを選んで極意相伝するというのが“常識”だからです!

 無論、何人もの伝統武術修行者から、「そんなことはない! 昔はそうだったかもしれないが、現代では包み隠さず何でも教えてもらっている!」と反論されたことが何度もありました。

 ところが、そう言っている人の実演を見ると、本人は得意満面に「これが正しいやり方だ」と披露しているのですが、私から見ると、ものの見事に型の形式だけしか教わっておらず、技を崩して応用変化させて用いることや、基本となる戦闘理論がゴッソリ抜け落ちているのです・・・。

 つまり、カモにされて大金をふんだくられながら、嘘を教えられていた訳で、“騙されていた”のですね。


 話を戻しますが、私がまだ武術雑誌のライターをやっていた頃、「物凄い発勁を披露する先生がいたけれど、突然死してしまった。どうやら震脚のやり過ぎで脳にダメージを負ってしまったらしい」という話を聞いたことがありました。

 もちろん、安田先生が嘘を言っている訳ではなく、正しくやれば脳震盪は起こらないのでしょうが・・・さて、そもそもの話、正しくやれる人がどのくらいいるでしょうか?

 上手い人に共通している誤解は、自分を基準にして考えるので、下手な人、できない人が、「何故、うまくできないのか?」を理解できない点です。

 例えば、「立禅で頭がおかしくなるなんてあり得ない」と言う先生もいますが、それは御自分の周囲にいなかっただけで、実際に立禅をやっていて性格が豹変したり感情が激し易くなったりする人は結構な比率でいます。

 以前、立禅を中心に修行する流儀の師範格の人が浄霊をすると言って女子中学生を親の目の前で犯す?という信じられない事件がありましたが、このような常軌を逸する行動を是認させてしまうのが立禅も含めた瞑想系修行によって陥る“魔境”の恐ろしさです。

 この点の危険性をまるで考えていない人が多過ぎます! 甘過ぎる!

 特に、いくつかの流儀を兼修した人はそうなる確率が高いようですし、熱心にやっている人ほど発症率が高くなる現実があり、心ある人達の間では問題視されているんです。が、公に注意を促したりすれば生徒が減ってしまいかねないから、良い効果しか発表しない訳です。

 これは本を書く時の注意点としても、「本は宣伝のために書くものだからマイナスになる要素のことは書かないでくれ」と言われる場合が多いんですよ。

 でも、そんな裏事情を知らないから、空虚な綺麗事の理想論を読んで、「何て素晴らしい先生なんだ!」と信じてしまう人も多い訳ですね。

 世の中で苦労を重ねた人なら、文章の裏を読む(洞察する)ことができるでしょうが、まあ、読解力の無い人は大勢いますからね~?

 救いようがないのは、「立禅は最高ーっ!」とハイになった目で叫びながらやっているような人・・・完全に“ポン中”ですよ。

 以前、清原の事件の時に覚醒剤の作用についてTVのワイドショーで解説していましたが、覚醒剤はSEXの時の快感の十倍も気持ちいいと数値化されていて、「なるほどな~? こりゃ、やめられん筈だな~?」と、苦笑してしまいました。

 淫祀邪教と言いますが、武術も熱狂的にやっている人間にとっては宗教と同じ。

 独善と排他。自分の信じるものだけが全てで、他所は間違い・・・。

 判断基準がこれだけ!

 笑っちゃいますよ。「勝手に信じてやっててください」って言うしかありません。


 それと、ちょっと気になったのは、震脚は具体的な技には応用できないみたいに安田先生は書かれていましたが、これも疑問です。

 武術である以上、一つの目的のためだけの動作であるとは思えません。いくつもの目的が複合的に作用して相乗的に効果を高めるのが武術の術理である筈です。

 実際に八極拳の震脚を応用していくつもの武術用法を考案しましたが、套路の動作の中に組み込めば無限大に応用していけると私は考えます。

 以前、ビデオで見て、竹内流にも無双直伝英信流居合術にも空手道にも震脚のようにズシンと足を踏み締める動作を確認し、「はは~? これは中国武術の専売特許という訳ではないな?」と直感して研究してみたことがあります。

 陳氏太極拳は非常に優れた武術だと思います。安田先生も非常に優れた技量をお持ちの先生だと拝察します。生前の松田先生からもお話をうかがったことがありますし、中国武術の世界で一種独特のポジションを確立している方だと尊敬しております。

 しかし、だからこそ、自流の価値判断にのみ頼むのではなく、他流の良さや他流に打ち込んでいる人達の研鑽に想いを馳せて戴ければ、本当に有り難いことだと思います。


 さてさて・・・これまた余談ですが、今回の論考にも参考になると思うので書きます。

 横並びにしたマキワラを試斬する大会?の様子の動画を練習の時にスマホで見せてもらいました。

 が、足場を固めて、しっかり刀を振りつつ、失敗する人が続出していました。

 誰も彼も力み返って刀を振っているのと、足を踏ん張っているのが失敗する原因ではないか?と思いましたが、皆が皆、そうやっているということは、それが正しいやり方なのだと教育された結果なんだと思いました。

 マキワラが一本なら、それでもいいでしょうが、横並びのものを斬る場合は、刃筋が最後まで通らないといけないので、足場を固定してその場で身体を回転させるのではなく、横にスライドするようにして刃筋を持続的にまっすぐ通すようにしないと斬れない筈。

 非常に単純化した論ですが、要は“力がどう作用すれば、技としての効果が発揮されるか?”という点から考えないとダメです。

 私は試し斬りは、文字通り、頭で考えたやり方が正しいかどうかを検証するためにやっています。斬ることが目的でやっているのではありません。

 寸勁斬り(ネーミングは故・佐藤貴生先生!)も、重心力の集中で力を真っすぐ通す訓練として考えたもので、この練習によって通常の打拳の浸透勁のコントロールも向上しました。

 あるいは下段手刀払いを人さし指一本で実施して廻し蹴りを払い落とすこともできるようになりました。

 つまり、重さの乗せ方と力が働く面積の縮小化ができてきたという訳です。

 もう十年くらい経過しましたが、直感的に始めた独己九剣の稽古が、刀を使わなくとも同等以上の戦闘力を発揮できるようになってきた・・・という次第です。

 直感というのは凄いですね? まさか、ここまで研究が進むとは私自身も予想外です。

 奇しくも、『刃牙道』で宮本武蔵が無刀(素手)で二天一流を実施するという描写とリンクするような研究になってきて、その意味でも『刃牙道』の今後が非常に楽しみなのですが・・・。

 甲野氏経由の若手研究家の方も増えている様子ですし(広い意味でいったら私もそうなるのか? 嫌だな~・・・)、うちも若手のレベルアップっぷりは異常なくらいです。

 時代によって変わる面と、時代を超えて伝承される不変のもの・・・その両方を上手く機能させて後進にバトンタッチしていくのが、もう若くはないけれど年寄りでもない私の世代の責務なんだろうと思います。

 少なくとも、もう「ナントカ流が最高!」とはしゃいでいる幼稚な時代は終わったのです・・・。

 21世紀は、「武術によって、人間はどこまで進化していけるのか?」というのがテーマだと私は直感しています・・・。


PS;熊本大地震の義援金集めのためにDVD半額セールを実施してきましたが、一応は落ち着いてきているみたいですので、六月一杯で終了させて戴きます。御協力ありがとうございました! また、最新作『交叉法2』の割引セールも六月一杯とさせて戴きます。七月から通常価格となりますので、御希望の方はお早くお申し込みください!

関連記事
スポンサーサイト
このページのトップへ
コンテントヘッダー
著者プロフィール

yusinryu

Author:yusinryu
長野峻也(ながのしゅんや)。武術研究家。游心流武術健身法主宰。
武術指導、アクション殺陣指導致します。映画等のコラムも書きます。
関係者の方、ご連絡をお待ちしております。
yusin_mail_from2006
@yahoo.co.jp

FC2カウンター
リンク
最新記事
カテゴリー
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

月別アーカイブ
ブログ内検索