長野峻也ブログ

武術研究家、長野峻也の色んなエッセイ?を掲載します。リンクフリーです。HP:【http://www7a.biglobe.ne.jp/~yushinryu/】

本の感想

暴いておやりよ ドルバッキー』 大槻ケンヂ著 ぴあ刊

 遅ればせながら、いつも私の本を紹介していただいている大槻ケンヂさんの御著書を読みました。

 これは『ぴあ』の連載を纏めたものに『本の雑誌』とかのエッセイも加えてあるそうなんですが、私の本『武術のヒミツ』についても感想文が書かれていました。

 元会員で読んだ人が「基本的に誉めていない」と言っていたんですが、別に批判的に書いている訳じゃないし、単にツッコミを入れて楽しんでもらった様子が感じられます。単純に茶化しているんじゃなくて、大槻さんのハートに響くものが有ったんだと解釈してます(ギャグの波長が合うとか?)。

 中でも、私が笑ってしまったのは、“古武術世界からの恐怖新聞”と『秘伝』を紹介しているところで、まあ、その筋の人達は怒るでしょうけど、ここまで的確な譬えはあり得ないよな〜と思いましたよ。

 そうだよな〜。アレを読んで信じ込んでしまったら、寿命が縮みそうだもんね。

 一般の格闘技愛好者が武術を胡散臭いと感じる最大の要因は、「武術の本が怪し過ぎるから」なんだと思いますよ。

 まあ、初めて読んだ人は学研のムーを読んでいるような錯覚に襲われるんじゃないでしょうか? 『秘伝』に限らず、中国武術の専門誌『武術(ウーシュウ)』なんかも同じノリでしたよね。

 これって、何故か判りますか?

『秘伝』も『武術』も企画立案した人が同じだからです。現在のBABジャパンの社長の東口さんが企画したんですよね。『フルコンタクトKARATE』もそうだし、東口さんは元々、『月刊空手道』の編集長だったから、武道・武術の出版プロデューサーとしては極めて敏腕な人だと言えると思いますよ。

 あのモンスター?小島一志さんだって、東口さんが認めて『月刊空手道』の編集長を譲ったそうですね。失敗したと思ってるみたいですけど・・・。

 東口さんは福昌堂で新しい雑誌を出そうとして失敗した責任をとって辞めたと聞いていますけど、偉いな〜と思うのは、やっぱり見返してやろうと思ったからなんでしょうが、アメリカのパンサープロの武道ビデオを輸入販売する会社を興して、その宣伝媒体として『秘伝』の前身である『秘伝・古流武術』を、心眼流の島津先生を顧問に、当時、古流武術の研究家として愛隆堂で寺尾正充の名前で活動していた平上信行氏を具体的な編集の相談役として創刊したんですね。

 で、当時、甲野さんや黒田鉄山師範が頭角を現したり、大東流六方会の岡本正剛先生が注目されて大東流の合気ブームが起こりつつある時期に重なって順調に売上を伸ばし、自社制作ビデオも作り始めていたんですね。

 確か、クエストさんが少し早く武道・格闘技のビデオ制作専門会社として発足していたんじゃなかったでしょうか? 当時の『秘伝・古流武術』には広告が載っていたので、BABとクエストが別の会社であることを気づかない人が結構いましたね。

 その後、『秘伝』の好調っぷりに対抗する意味で福昌堂でも古武術専門誌『極意』が創刊されたり、東口さんに反発した平上氏が愛隆堂から『極意相伝』という専門誌を出したりしましたが、いずれも部数が伸びずに休刊。平上氏は『秘伝』に逆戻り。

『極意』休刊と共に編集担当の塩澤さんは福昌堂を退社し、しばらくフリーで仕事していたらしいんですが、生活の心配をした島津先生の口利きで『秘伝』編集部に入り、現在は編集の責任者として活躍されています。この辺りの事情を客観的に見ても、競合誌の編集をしていた人を受け入れたんだから、東口さんは立派だな〜と感心しましたね。

 と、こう書くと、東口さんの偉人伝みたいになっちゃいそうなんですが、でも、私個人は、武術の世間的イメージを怪しいものにしてしまった責任は有ると思うので、評価は半々です。

 第一、“武道や武術に対して何の愛着も無い人”なので、“優秀なビジネスマン”として認められるだけです。それを悪いことだと責めるのは酷でしょうが・・・。


 えぇっと、それで・・・大槻ケンヂさんの神秘武術への興味津々っぷりがよく判ったんですが、疑問点を三つ挙げてくれていらっしゃったので、これについてかい摘まんでお答えしておこうと思います。

1,秘伝とされている技術の信憑性。合気、発勁、触れずに倒す、等。
(これについては一応、納得されているようなので割愛します)

2,奇妙な動作の物理的な意味。型、スローモーな太極拳の動き、立禅、等。

 これについては、説明が足りなかったな〜と反省しております。一応、『武術のヒケツ』『武術のシクミ』で個々の技の意味とか用法なんかは解説しているから、その後は理解してもらえたかも知れませんけれど、「潜在能力が発揮しやすくなる」と私が書いているのは、(頭が良くなるとかそういうことは一応、置いといて)主に“重心移動力”を駆使することについてなんですよね。

 私は“潜在能力”と表現する時は、「本来もっていて出せる能力」という意味であって、超常能力のことではないんですよ。例えば、1tの重さのパンチなんて空手やボクシングを何年修行しても普通のやり方ではとても出せないですよね? でも、重心移動によって生じるエネルギーを乗せれば誰でも力学的にこれくらいは出せるようになる。

 発勁が“押す力”になりやすいとしても、普通、50〜80kgくらいある人間をポーンと数mも跳ね飛ばすというのは、軽く車がぶち当たったくらいの衝撃力は必要な筈ですよね。計算上、1tくらい誰でも出せるというのは、これを見ても解ります。

 私が「筋力に頼るのは無駄が多いから自分はやらない」と言っているのは、重心移動で力を出した方が簡単だし突き蹴りの加速空間も筋肉を絞り込むタメもいらないからです。

 そして、この体内の重心を自在に操作できるようにするために立禅や太極拳の訓練が有効だということなんですよ。

 無論、これらの訓練は“力”の出し方とコントロールを学ぶものであって、具体的な攻防の技術と、打撃の威力を跳ね飛ばすのでなく内臓に作用させてダメージを重くする秘訣は別に学ばないといけません。

 ただ、1tクラスの衝撃力を内臓に作用させたら、どうなりますか? 普通の人間なら命に関わるダメージになりますよ。まだ、押し飛ばされるほうが安全なんですよ。

 だから、秘伝にして隠したという面も有ります。私だって全力でコレを打ち込むなんて怖くてできませんよ。ごく軽く打ってもムチ打ちになったりしてしまうんですから。

 それと、通常の打撃格闘技の試合では互いに動きながら打ち合うので、たとえ1tの重さのパンチやキックが打てても、それを百パーセント相手に作用させられることはそうそうありません。インパクトが多少、殺されたり半減するんですよ。もし、棒立ちになってるところに全力で一発で入れば簡単に倒れるでしょう。

 中国の内家拳では相手を固定しておいて発勁を打ち込むやり方が多いのも厄介なところですが、これも一般的には隠されているので知らない人が多い。

 多くの中国武術家は、この点を無視して、長く修行していればいきなり戦えるようになるのだと勘違いしているので、一向に戦えるようにならないままなのです。当たり前ですけどね。「戦い方を教えない」んだもん・・・。

 私みたいに自分で考えたほうが早いと思うんですけど、武術の伝統を重んじ過ぎる人は、そういうことを考える行為を否定したがる。私は研究家なんだから、放っといてよって感じですね。

 それはまた別の話として、大槻さんが「え〜〜っ? だったら、別に武術などせずに、頭に本を乗っけて落ちないようにウォーキングでもしていればよいのでは?」という感想を書かれたのは、御本人はツッコミのつもりでしょうが、実は全くおっしゃる通りで、現に私もそんな練習してましたし、舞踊に注目したのもそういう理由なんですよ。

 武術が中心軸を確立することに拘るのは、「重心移動の力を駆使するためには、まず重心のバランスが崩れない(軸が崩れない)ようにする必要がある。その次に、バランスを崩さないように動き、歩き、戦えるようになれば、次第に重心移動の力を駆使して戦えるようになる」という直感的な共通認識が有ったと私は考えています。

 だから、大槻さんがいきなり飛躍したトンデモ理論だと感じたのは、“重心移動の力”の具体的な実感が無かったから、そう感じられたんだと思います。これは自分に体感が無ければ具体的に理解することは無理があるでしょう(武術の型稽古は、その体感を伝達していく教育システムだと言えば理解してもらえるでしょうか?)。

 実際、本の編集担当者もまったく同じように感じていて「長野さんらしくない。飛躍し過ぎています」と指摘されていたんです。が、この点については私はちっとも飛躍しているとは思えないんですよ。だって、直立して歩くことって動物の身体構造上、とんでもないエポックメイキングになっていると思うんですよ。

 重力という地球が発している“力”を足かせとして考えるのでなく、むしろ積極的に利用することを考えたのだから、やはり武術の歴史は凄いものだと私は思いますし、それを忘れて筋肉信仰するスポーツ理論では先が見えていると思います。

 重力を感じて身体を考えることは、さらに人間の進化を促す切っ掛けになると私は思っています。それは人間が人間以上の存在になることを求めた様々な試みの中に鍵が隠れていると思うからです。

 考えてみてください。生まれたまま何の訓練も教育も受けない人間はどんな存在になるでしょうか? 訓練や教育は、人間を進化させるための装置として人間が自ら考案したものです。教育を受けられない地域に生まれた人間が、そこから別の場所に移されて教育を受けたら、以前の自分に対して人間として目覚めていない存在だったと感じるのではないでしょうか?

 百年前の人間が現代にやってきたら異世界に来たと感じるでしょう? 携帯電話なんか見たら霊現象だと勘違いするんじゃないかな? 『地下鉄に乗って』で、過去にタイムスリップした堤真一が万札出したらびっくりされるっていう描写が有りましたけど、我々は急激な変化に慣れているだけで、客観的に人類を見れば年単位で何万年分も加速度的に進化している筈ですよ。

 これは良いか悪いかは別にして、人間は自らを進化させることを選んだからこそ地球の支配者として自己を認識させている。人間と同等の知能を持つと言われるイルカやチンパンジーとの違いが、ここにあると私は思っています。

 我々は、それが当たり前だと慣れ過ぎて、認識できていないだけです。インチキを神秘と思う人は何げない日常の中の神秘に気づかない。優れた科学者が文学的なロマンチストだったりするのも、この辺りに理由があると思いますね〜。

 宮本武蔵が柳生石舟斎の切り花の茎の切り口を見て、並の遣い手ではないと戦慄を覚えたという、あの感性がないと武術修行は中々難しいもんだと思う・・・ナンテネ?(スンマセン! 物凄く遠回しに自慢しちゃったよ〜ん)


3,で、それ実際強いの?

 う〜む。口で何と言ったって疑問が残るでしょうからね。ズバリ! 「一般的に現代の競技武道や格闘技をやっている人達と五分の条件で闘ったら勝てる武術家はかなり少ないでしょう」と、現実的にお答えしておきます。

 例えば、「長野さんが極真のトーナメントに出たら勝てますか?」と聞かれたら、「負けます!」と断言します。剣道、柔道、スポーツチャンバラ、総合格闘技、ボクシング等々の試合に出場しても同様に「負けます!」と躊躇なく言っちゃいます。

 だって、専門にやっている人達の練習量はハンパじゃないですよ。週に一回、道場で一時間半くらい、「いい汗かいたな〜」って、練習後の居酒屋でビール飲んでる40過ぎたオッサンが勝てるなんか思ってたら誇大妄想がいいところでしょう?

 私、そんな勘違いするほど若くないっスよ〜(と、油断させておいて、翔べ!必殺うらごろしの市原悦子みたいにドスでどすっと刺して「要は、勝ちゃあいいんだよぉ〜」って言うのが武術です・・・って、これで納得してくれるのかな〜、大槻さん?)。

 もっとも、いくら護身術だからって言っても言い訳みたいに思われるのもシャクなんで、現在、試合に使える技も色々と研究しております。別に否定する必要も無いし、試合で勝ちたいと思う人には勝たせてあげたいから・・・。


 え〜っと、余談ですが(って、余談ばっかりじゃ〜?)、電波人間タックルの欄外解説の箇所で、タックルの最後の必殺技が“スーパーサイクロン”となっていましたが、これは“ウルトラサイクロン”の間違いだと思います。

 だって、タックルが「ウルトラサイクロンッ!」と叫んでドクターケイトをやっつけた時、「オイオイ。石ノ森の代表作ライダー・シリーズで円谷の代表作のウルトラって言葉使っちゃダメだろう?」ってツッコミ入れたから、間違いないと思います・・・(はっ? そういえば、『キャプテン・ウルトラ』は東映で円谷プロとは無関係だったような?)。
 え〜、文中、読者にとって意味不明の脱線が続きましたことを慎んでお詫び申し上げます・・・。




『マンガでわかる! 芦原カラテ 実戦サバキ入門』 スキージャーナル刊

 おぉ〜・・・小島さんの大暴走で泥を塗られてしまった芦原空手の、漫画・写真での技術解説・DVDが三位一体となった技術指導書が出ました!

 西山先生の技術解説で英典館長の監修、空手界のアイドル小林由佳さんも出ていて、漫画は空手や中国武術等々の専門雑誌やムック本での漫画で知られる坂丘のぼるさん。

 これは素晴らしいっ!

 DVD付き教本は普通になりましたが、これに漫画がついているというのはエポックメイキングですね〜。

 スキージャーナルさんは、一体全体、どうしたの?ってぐらい、斬新な企画を進めていますね〜。

 同社の武道雑誌は、『剣道日本』だけの筈ですが、空手に古武術?、古流剣術に韓氏意拳、さらにストリートダンスの本も出していたような・・・?

 今はどこの出版社も出版不況の煽りで元気を失っているものですが、スキージャーナルさんはやる気満々ですね。

 芦原空手は小島ダークゾーンに引き込まれかかっていたから、この本の出版は脱出の弾みがついて良いのではないでしょうか?

 やっぱり、武道は実際に技を示してこそ真価が評価される訳ですからね。

(私も夏からフルスロットルで頑張るぞぉ〜! DVDも再販、新作製作始めますよ)
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