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武術の身体操作

 TVを見ていたら、たまたまチャンネルを変えた時に、元佐川道場の保江さん(理論武道家?)が出ていて、おったまげました。

 合気パフォーマンスを芸能人に教えるのに「バカになるといいんだ~」と、ナイスな指導法で体得させていたのは、「なかなかTV向きの役者だな~」と感心しました。

 丁度、電話中で、あんまり熱心に見ていなかったので、何をしゃべっていたのかはよく解らなかったんですが、恐らく、合気揚げで相手に強く押さえられているのをバカ(無心)になって撥ね除けることができるという点を教えていたみたいです。

 私は保江さんが武道家と言えるだけの実力があるとは思っていませんし、他流に対する理解が足りずに悪気がないけれども他流蔑視発言をしているように感じています。

 私がそう考えて批判的なことを言うと、うちの会員さんはそれに輪をかけて毛嫌いしてしまったりするので、あ~、これはいかんな~と思って、「俺の考えを鵜呑みにしないで冷静に見なくちゃダメだよ」と言ったりしていますが・・・。

 それはそれとして、保江さんには一点だけ、優れた点があるな~と思っていました。

 それは、技を掛ける様子の連続写真を見ると、“相手から目線を外して戦闘意欲そのものを放擲している様子がうかがえた点”です。

 基本的に興味を失ってしまったので読んではいませんが、保江さんが出した著書のタイトルで“唯心論武道”と言っている意味が、ここにあると思ったからです。

 理論物理学者である彼は、当然、唯物論の権化でなければならない筈ですが、往々にして物理学の専門家が精神世界や宗教哲学の分野に共鳴していくことは珍しくありません。

 デヴッド・ボームがJ・クリシュナムルティーに触れて明在系暗在系の理論を提唱したことなど、唯物論の枠組みでは、どうしても規定できない要素を感じて、心や、その先にあると想定される神の領域について肯定的な理論化を図る学者はいくらでもいた訳です。

 このような“陰極まりて陽になる”現象は、例えば、まるで左翼みたいな考え方になる極右翼の例(新右翼の鈴木邦男さん等)を考えてみれば理解しやすいでしょう。

 追究し過ぎると、根本的枠組みから外れて真反対の理論になったりするのです。

 神を認めない唯物論が、その根底から覆されるような理論の転換を図るしかない解釈にさらされてしまう・・・保江さんはそういう体験をしたのでしょうね。

 特に“理論”というのは、要は“仮説”ですから、平たく言えば“哲学”の領域なんですよ。“科学”だと実験検証して事実を明らかにしていく物理と数学が支配する領域でしょう? けれども、解釈の問題になると文章化する段階で曖昧な要素がどんどん入ってしまう訳ですよ。

 保江さんは合気という技法の解釈の段階で宗教の悟りを持ち出したりしたので、技法のメカニズムを身体操作から解析する工夫を怠った印象がありますね。

 これはほとんどの武道実践家に共通する点で、最近の例だと宇城氏の気の理論(理由付け)に顕著です。宇城氏は技の権威性を演出するために気の理論を持ち出したに過ぎないと私は見ていますが、具体的な身体運動のメカニズムを読み解けない人が武道の世界では圧倒的主流であるために、あまり批判されることもなかった訳です。

 しかし、このような事情は世間一般からは乖離しているんですね・・・。



 武道をやっている人というのは、相手に技をかけようとする時に、必ず戦闘意欲が高まります。

 それは、筋肉を力ませ、重心を落として全身のバネを使って襲いかからんばかりの体勢を無意識のうちに取らせます。

 極上の合気の使い手は、この戦闘意欲から生じる身勢を滅却しています。

 つまり、まったく力みません。目前の相手が襲いかかろうとしていようがいまいが。

 敵を敵とすら認識せず、猛スピードで突っ込んでくる自転車をヒョイッと避け、そのついでにラリアットをくらわせるようにして入身投げをかけたりするのです。

 しかも、中には、笑いながらやる人もいます。

 保江さんは、稽古仲間を相手にした場合には、そういうことをやっているのだと思われます。

 よそ見して、ポカ~ンとした惚け顔で技をかけるから、相手の力とぶつからずにスイッと技がかかる・・・まあ、そういう仕組みです。

 これは、身体操作だけでは解釈できません。意識の用い方、つまり、“心法”の秘訣だからです。

 ところが、武道を熱心にやればやる程、こういう心法は難しくなります。だって、戦闘意欲を捨てないといけないからです。

 むしろ、全然、戦闘意欲なんか無い人の方がすぐにできるでしょうね?


 私が自由組手の問題点を感じた理由の一つもコレです。戦闘意欲を高めるということは、“読みのエジキになる”ということだからです。

 これでは、目指す方向性が逆になってしまいます。だから、思い切って自由組手は止めてしまったのです。

 殴り合うのが好きな人はそういう道場へ行ってくださいということです。

 私が目指しているのは、“相手に何もさせずに一方的にやっつける武術”なので、向かい合って、ヨ~イ、ドン!という牧歌的なタイマンのイメージはないんですね。

 強いて言えば、“必殺仕事人がチャララ~ン、プシュッ!(死んだ)”みたいなのでしょうか? ああいうプロフェッショナルな一撃必殺を理想にしているんですね。

 なんでか?というと、一人倒すのにマゴついてるようでは相手が複数だったら絶対に勝てませんからね。2~3人相手に実験してみたらすぐに判りますよ。

 私は、読みの訓練を続けているうちに、何となく、相手の弱点がパッと見て解るようになってきました。従って、パッと見て「あっ、ここを攻めれば勝てるな」と解る。

 逆に言うと、パッと見て「あっ、これは強いな~。ちょっと勝てないな~」というのも解るし、「勝てるには勝てそうだけど、こっちも無傷とはいかないだろうな~」とか細かく解るようになってきました。

 本でも書いていますが、こういう“読み”は、文章読んだだけでも解るんですよ。

 威圧的な書き方をする人間は弱いです。自分の弱点を悟られまいとするから威圧するのです。本当に強い人は、自分の弱点を平然と晒してしまう人です。これは怖い!

 弱点だと思って攻めると逆に自滅させられます。これ、交叉法の極意ですよ。

 そしてまた、その人が威圧する時に持ち出す最大の武器が、最大の弱点にも繋がっていくのです。だって、自分の手の内を晒してしまったら返し技を工夫されるのは当然。

 その意味で、今の日本の武道家を自称する人達の人の好さ(頭の悪さ)は、笑ってしまうくらいです。

 電車に乗っている時なんかも、読みの訓練にはもってこいです。

 何か、妙に威嚇したがる男とかいるんですよね。威嚇したがるというのは、妙に筋肉に力込めて目付きを鋭くしてみせたりすることです。

 一見しただけで、何か武道や格闘技の経験がいくらかあるんだろうな~とか、経験はないけどヤンキー気取りなのかな~とか、そういう男は夏場になると必ず電車の中で見かけます。

 どうしてか?というと、講座や道場への行き帰りで刀の入ったケースを肩にかけて会員と一緒に電車に乗って話すと、話の端々で私たちが武術やっている人間だと察知できるでしょう?

 そしてまた、重要なのは、私も会員も顔が“いかにも武道やっています”に見えない点ですよ。

 だから、“こいつらナンボのもんじゃい”と刺激してしまうんでしょうね。

 なので、突如、腕組みしたり指の関節鳴らしたりして自己主張しはじめる男の子がいたりして、ちょっと面白いです。

 だけど、こういう主張をする人間はその時点でダメなんですよ。だって、上半身に力を込めたりするから重心が浮いてしまう。意気がって見せた途端に電車の揺れでスッ転んだニイチャンもいました。

 強い人は、いつ何時もリラックスしていますよね。


 さて、武術の身体操作はリラックスすることが肝心なのですが、意識によってその実現度は大きく左右されてしまいます。

 よって、メンタル・コントロールで身体操作をするやり方もいくつも考えられていますけれど、これらはヨーガの専門家の方がよほど上手いのではないでしょうか?

 武術の身体操作で肝心なのは、集中力です。

 何を集中するのか?と言えば、“力”です。全身の筋肉を協調連動させて力を生み出すやり方が一般的でしょう。これは伸筋主導の力で、一般的に発勁や合気はこれを用いると考えられる傾向があり、ほとんどの流派がこのやり方を主張します。

 しかし、このやり方は一定年齢を越えると衰える一方です。

 私は重心移動で生じるエネルギーを集中して打ち込む“力”を重視します。いわゆる脱力パワーです。これは重力(グラヴィトン)を利用するものです。

 これは年齢を重ねても肉体が弱ってもあまり衰えません。筋肉を鍛える必要もなく、ただ柔軟に動ける身体を練り込めば、どんどん上達していきますし、コツが飲み込めれば一、二時間の訓練で“数倍のパワー”(ハッタリじゃなくて事実です)を得られます。

 この非常識さ故に、気のパワーと勘違いされてきたのでしょう。

 この重力を利用した武術は、合気道と太極拳など、ごくごく限られた流儀だけでした。

 ちなみに、重力は自然界に働いている力であり、磁力や電力より普遍的です。よって、気の概念「天地自然には気が充満している云々・・・」という考え方に従えば、気の力であると言えないこともありません。

 要は、これもまた解釈の問題だということです。


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著者プロフィール

yusinryu

Author:yusinryu
長野峻也(ながのしゅんや)。武術研究家。游心流武術健身法主宰。
武術指導、アクション殺陣指導致します。映画等のコラムも書きます。
関係者の方、ご連絡をお待ちしております。
yusin_mail_from2006
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